医学の知識

肩関節周囲炎に対する理学療法【2017・2019年のレビューを元に解説】

理学療法士のこうすけです。

今回は2017年に発表された『Physical therapy in the management of frozen shoulder』と2019年に発表された『Treatment Strategy for Frozen Shoulder』という肩関節周囲炎に対する治療について書かれたレビュー論文を元に疾患の概要から具体的な理学療法について解説します。

肩関節周囲炎のガイドラインに関してはグーグルで検索するといくつか出てくると思うので、そちらも参照しながら、治療の流れについて理解していただけたらと思います。

まず、肩関節周囲炎についてですが、海外では『Frozen shoulder』と『adhesive capsulitis』という二つの用語が日本でいう肩関節周囲炎の病態を反映したものとして使用されています。

ただ、”frozen shoulder”は凍結肩、”adhesive capsulitis”は癒着性関節包炎といって日本語でも使われ場合がありますが、ここでは、”frozen shoulder””adhesive capsulitis”の二つを合わせて肩関節周囲炎とみなし、説明していきます。

肩関節周囲炎は明確な定義は存在せずfrozen shoulderの定義に当てはめると『明確な肩関節異常がないにも関わらず肩関節の自動および他動運動が著しく制限された状態』と考えるのが妥当でしょう。

すなわち、腱板損傷や石灰沈着性腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎などの原因が明らかな肩関節疾患を除外した上で、これから紹介する理学療法は実践していく必要があります。理学療法評価でこれらの疾患を除外することはほぼ不可能といえるため、画像(X線写真、CT、MRI、エコーなど)によりしっかりと確認した上で理学療法を進めることが大切です。

では、一つ一つ見ていきましょう。

肩関節周囲炎の概要

肩関節周囲炎の有病率は2−5%で40−60歳に多く、女性に多く見られる疾患です。

肩関節周囲炎には大きく分けて『一次性』と『二次性』の二つに分けることができます。一次性とは糖尿病などの他の疾患に関連して起こるものをいい、二次性とは外傷(腱板損傷なども含む)や固定後に続いて起こる肩由来のものをいいます。

一次性の肩関節周囲炎のリスクが高まる疾患としては、糖尿病、甲状腺疾患、パーキンソン病などが挙げられています。

一次性肩関節周囲炎のリスクを高める疾患

  • 糖尿病
  • 甲状腺疾患
  • パーキンソン病

など

肩関節周囲炎の経過

肩関節周囲炎では、①freezing phase、②frozen phase、③thawing phaseの三つの段階を経て進行していきます。

Physical therapy in the management of frozen shoulderより引用

①freezing phase

2−9ヶ月続くとされるfreezing phaseは最も疼痛が強い時期であり、夜間痛が出現して夜眠れないこともある患者さんにとっては最も辛い時期です。また、通院しながらも疼痛が徐々に強まっていくことも珍しくないため、不安感や不信感が出現しやすい時期でもあります。

②frozen phase

frozen phaseは痛みは落ち着いてきているが、拘縮が進行する時期であり、4〜12か月続きます。

この際、肩関節屈曲、内外転、内外旋方向への拘縮が特徴的です。

③Thawing phase

freezing phaseで痛みが強まり、frozen phaseで拘縮が強まり、それらの症状が徐々に軽減していくのがthawing phaseです。この時期は5−26ヶ月続くとされ、おおよそ1−3年以内には治癒すると言われていますが、発症から7年後においてもこわばりを感じる人は50%、機能制限を報告した人は11%であるとされています。また、5−10年の追跡調査においても症状が完全に回復した人は50%とされており、決して全員が治る疾患でないということは知っておく必要があります。

肩関節周囲炎に対する理学療法(各phaseごとに解説)

それでは、実際に理学療法を行うにあたってどのように治療を行なっていくのかを各phaseごとに見ていきましょう。

ただ、その前に肩関節周囲炎に対する理学療法で一番やってはいけないことを知っておく必要があります。

それは、高強度のストレッチと筋トレです。

以前にもお話ししたとおり、高強度でストレッチや筋トレをした群とはじめに軽く説明だけして経過観察を行った群では経過観察だけを行った群の方が可動域、痛みともに成績が良かったという報告があり、高強度でストレッチ、筋トレをするくらいならやらないほうがマシという結果が出ております。

さすがに痛みの強いfreezing phaseで高負荷の運動をする人はいないと思いますが、拘縮の強いfrozen phaseやthawing phaseでは、安易に負荷を上げがちです。

この研究では2年間追っていて、その後半においても、高負荷群が経過観察群に成績が迫ることが無かったことを考えると、拘縮の強い時期においても負荷量は慎重に設定する必要があると考えられます。

また、理学療法は肩関節周囲炎に対してある程度効果が認められているものとそうでないものが存在します。

効果的なものとしては『ホットパック』『ジアテルミー』『レーザー』などの温熱療法や”高負荷でない”『運動療法』、モビライゼーションなどの『徒手療法』がRCTなどでも有効性が示されています。ただし、同じ温熱療法である『超音波』は効果が無いことが示されているというのも知っておくべきポイントでしょう。システマティックレビューは2002年と2003年に理学療法の効果ということで発表されていますが、単体の介入に対するものは現状見当たりませんでした。

これらのこと念頭に置いて各フェーズごとの理学療法について見ていきましょう。

①肩関節周囲炎に対する理学療法(freezing phase)

freezing phaseは最も痛みが強い時期です。この時期に重要なことは疼痛管理、患者さんのフラストレーション(不安、不満など)の解消、拘縮予防がポイントとなります。

freezing phaseにおける理学療法のポイント

  1. 疼痛管理
  2. 患者のフラストレーションの解消
  3. 拘縮予防
①疼痛管理

疼痛管理に関しては、関節内ステロイド注射NSAIDSが比較的有効であるとされているため、それらをベースに行なっていきますが、理学療法士も疼痛軽減に対して介入する必要があります。

理学療法としては、TENSや、ホットパックなどは単独では報告はありませんが、併用で一定の効果が認められており、疼痛の減少が期待できます。

また、効果を検討した論文は見当たりませんでしたが、『Physical therapy in the management of frozen shoulder』ではアイスパックなどの寒冷療法も炎症による痛みにおいてはいいのではないか?と述べられており、患者の自覚症状次第では実践しても良いかもしれません。

②患者のフラストレーションの解消

freezing phaseでは、通院を開始したのにも関わらず、疼痛が減少せずむしろ増悪する例が少なくありません。そのため、患者さんは不安や不満を抱きやすくなることが考えられます。

医師はもちろんのこと理学療法士も一般的な経過や比較的良好な経過をたどる傾向がある(約9割の人は機能制限が残らないなど)ことを把握し、理解させる必要があります。ただし、完全に元に戻らない可能性もある程度あり得るので、正確な情報を伝える必要があります

③拘縮予防

疼痛が強く少しずつ拘縮が進行してくる時期ですが、先ほども述べたように過負荷を避けることが何よりも重要で、拘縮予防は優先度としては二番目になることを知るべきです。

そのため、この時期に推奨される運動とは、コッドマン体操や愛護的な他動および自動介助下でのストレッチとなります。また、時間に関しても1回あたり1−5秒程度の運動にとどめ、1日に5〜6回1回あたり5〜10分程度の頻度が推奨されています。(推奨される運動方向:肩屈曲・外転・外旋・内旋・水平内転)

②肩関節周囲炎に対する理学療法(frozen phase)

frozen phaseでは、疼痛の減少とfreezing phaseに起きた拘縮が見られます。可動域だけではなく、筋力低下も著明に見られることが多いので、このタイミングで少しずつ筋トレを開始します

 

frozen phaseにおける理学療法のポイント

  1. 拘縮の改善
  2. 筋トレの開始
①拘縮の改善

この時期では、疼痛は少しずつ減少し、拘縮が大きな問題となる時期ですが、frozen phaseにおいても、高負荷でのストレッチなどは炎症の増悪を招く可能性があるので、あくまでも痛みのない範囲での運動を実施していくことが必要となります。特に胸部の筋と肩後方組織に対するストレッチは重要となります。必要に応じて、ホットパックやジアテルミー、モビライゼーションなどを実施しても良いでしょう。

②筋トレの開始

freezing phaseが長期化すると筋力低下も著明となります。そのため、疼痛が減少してきたこの時期から少しずつ筋トレを開始します。

肩関節は基本的に関節に負担の少ない等尺性運動で行います。自宅でも行えるように健側の上肢による抵抗をかけての等尺性運動が良いでしょう。ただし、筋トレも負荷量には注意する必要があり、指導も重要となります。

また、肩甲骨周囲筋の筋力も低下する場合が多いので、実施していきましょう。

③肩関節周囲炎に対する理学療法(thawing phase)

この時期はさらに疼痛が減少し、可動域が回復していきます。

痛みの増悪に注意しながら少しずつ負荷を拡大し、機能改善に努めましょう

thawing phaseにおける理学療法のポイント

  1. 拘縮の改善
  2. 筋トレ負荷量アップ
①拘縮の改善

frozen phaseと同様ストレッチを継続して行なっていきます。疼痛が減少しているため、自然と負荷が上昇していきますが、これまで同様疼痛のない範囲での運動が大切です。

②筋トレの負荷量アップ

疼痛が減少し、可動域も拡大してくるこの時期では、これまで等尺性で行なっていた運動から、徐々にゴムバンドなどを使用した等張性運動に拡大していきます。

それも可能になった場合は、フリーウェイトでの運動も少しずつ取り入れバリエーションを増やしたトレーニングを行いましょう。

疼痛減少、拘縮改善、筋力改善によって機能に問題が無くなった段階で治療は終了となります。

まとめ

今回は肩関節周囲炎に対する理学療法ということで解説してきましたが、どうだったでしょうか?

簡単にいうと

肩関節周囲炎は無理をしなければ比較的経過の良好な疾患なので、時期を考慮しながら無理のない範囲でエビデンスの高い理学療法を実践しましょう

ということになります。

解剖学や運動学にフォーカスする理学療法士の方も多いと思いますが、これらのエビデンスを知った上で実践していくことでさらなる効果アップにつながるのではないかと考えております。

参考になれば嬉しいです。

ご覧いただきありがとうございました。

【参考文献】

Chan, Hui Bin Yvonne; PUA, Pek Ying; HOW, Choon How. Physical therapy in the management of frozen shoulder. Singapore medical journal, 2017, 58.12: 685.

Cho, Chul-Hyun; BAE, Ki-Choer; KIM, Du-Han. Treatment strategy for frozen shoulder. Clinics in Orthopedic Surgery, 2019, 11.3: 249-257.

 

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