理学療法士のこうすけです。
今回は四辺形間隙症候群(quadrilateral space syndrome)について2018年のレビュー論文を中心として疾患について解説していきたいと思います。
病態
四辺形間隙症候群とは、CahillとPalmerによって1983年に発見された肩周囲の疼痛を主とする疾患です。
四辺形間隙(quadrilatereal space;QLS)とは、小円筋、大円筋、上腕三頭筋、上腕骨内側によって構成される四角形の空間のことをいい、その空間から腋窩神経と後上腕回旋動脈が出ているため何らかの原因でそこで狭窄が起こり症状が発生します。
症状
症状には4つあります。
- 肩周辺の痛み
- 四辺形間隙の圧痛
- デルマトームとは関連のない知覚異常
- 誘発肢位での血管造影の陽性
当たり前ですが、腋窩神経と後上腕回旋動脈が狭窄された時に起こる症状が四辺形間隙症候群で起こる症状であり、安静時・動作時ともに痛みを伴うことがあります。
また、QSSは神経性と血管性に分かれ、神経性QSSの特徴は知覚異常、fasciculation(神経疾患に特有の攣縮)、脱力感、神経因性疼痛であり、血管性QSSの場合は急性虚血症状(疼痛、蒼白、脈拍消失)血栓症、塞栓症となります。
好発年齢・活動
40歳未満の人や腕を挙上する活動をする(野球、バレーボールなど)人に多いとされています。
原因
原因は明確でないことが多くありますが、一般的には外傷、繊維帯(fibrous band)の影響、筋肉による影響が挙げられます。
繊維帯の影響とは、四辺形間隙に結合組織などによって構成される繊維帯があり、それによりスペースがさらに狭くなり発症するというイメージです。
筋肉による影響は、筋の緊張の高まりや浮腫などにより、狭窄が起こるというようなイメージを持ってください。
また稀に、脂肪腫や血腫によって引き起こされることもあります。
診断
まず知っておきたいことはQSSにおいてゴールドスタンダードな診断方法はないということです。
QSSのの特定において感度・特異度ともに優れた評価方法は現段階では存在せず、評価を組み合わせることでQSSの特定に近づけていくという方法となります。
臨床所見
四辺形間隙の圧痛など先述した症状があるかどうかをまず確認します。
次に、肩屈曲・外転・外旋など四辺形間隙が狭まるようなストレスを加えた状態で、数分間保持して症状の出現を確認します。
まだ、ここではこれらの症状が出現しても、四辺形間隙症候群の可能性があるかもしれないな程度です。
除外診断
QSSには、優れた評価方法がないため、臨床所見で症状が見られたとしてもQSSと特定することができません。
そのため、他の疾患でないことを明らかにしていくことで、QSSの可能性に迫っていきます。
除外したい疾患の例としては
- 腱板損傷
- 頸椎病変
- CRPS
- 胸郭出口症候群
- 上腕神経炎
- 肩関節周囲炎
- 肩甲上腕神経損傷
など
があり、あらゆる評価方法により除外していく必要があります。
これらの考えを踏まえた上で、QSSの評価について説明します。
評価方法
評価方法はMRI、血管造影、エコー、筋電図4種類です。
- MRI
- 血管造影
- エコー
- 筋電図
MRI
MRIでは頸部であれば椎間板ヘルニアや頸椎症など、肩関節であれば腱板損傷や肩関節周囲炎などの影響を除外することがある程度可能です。
また、QSSは小円筋に限局したfatty atrophyが見られる場合があるため、原因を特定するための診断にもつながります。
血管造影
血管造影ではDSA(Digital Subtraction Angiography)やCTA(computed tomography angiography)などがありますが、目的は同じで、両側の後上腕回旋動脈に造影剤を流し狭窄される肢位での左右差を見ることで、動脈の狭窄を評価していきます。
これがQSS評価の基盤となる評価ですが、健常者でも80%が狭窄が見られたというデータもあるので、極めて特異度が低い評価であるということには注意が必要です。
エコー
エコーも最近では整形外科領域においても頻繁に使用される評価方法の一つです。
エコーでは、小円筋や三角筋の筋萎縮の評価ができることに加えて、カラードップラー(血流が評価できるもの)を使用することで安静時とストレス負荷時の後上腕回旋動脈の血流を評価することが可能です。
ただし、エコーが血管造影に比べて正確に評価できるわけではないと言われています。
筋電図
筋電図は神経伝導速度などを評価し、神経のどの部位に障害が見られるかを評価できる方法です。
しかし、QSSの評価においては偽陰性率が高い(筋電図評価ではQSSだったけど実際は違った)ので、QSS自体の評価というよりは、TOSや神経障害性疼痛の評価として使用すべきだと言われています。
まとめ
ゴールドスタンダードな診断方法がないため、読んでいただいた通り、かなりファジーな評価方法になってしまうのが残念です。
しかし、そんなことを言っていても始まらないので、現状を理解した上でQSSの可能性が高まった場合の治療方法を次にお話していきます。
治療
治療は他の疾患と同様に、保存療法と手術療法の二つに分かれます。
QSSでは、まず6ヶ月間は保存療法を行いそれでも改善が認められなければ、手術療法という流れとなります。
それではまず保存療法から見ていきましょう。
保存療法
保存療法の話をする前にこれまた残念なお知らせです。
参考文献に使われている論文は全て症例検討レベルでして、今回紹介する介入方法もエビデンスレベルは低いです。
現状QSSに対する介入において、RCTは僕が調べた限り実施されておらずエビデンスレベルの高い介入方法はないというのが現状です。
ただ、目の前に患者さんがいるのに何もしないわけにはいかないので、症例検討の際に使用され、比較的良好な結果を得た方法を紹介していきます。
方法1 活動の修正
これは、一番わかりやすいですね。スポーツをしている人であればスポーツを中止することです。腕を高く挙げなければいけない仕事なら休むあるいは辞める事です。
しかし、まあこれは現実的にはほとんどの患者さんが実践することはできないでしょう。
ですが、辞めるまではいかなくても、普段の生活の中で極力負担の少ない姿勢や動作方法を指導することで一定の効果は得られるはずなので、しっかりと患者さんと話し合い納得した上で日常生活やスポーツなどを調整していくことが必要です。
方法2 理学療法
理学療法としては四辺形間隙周囲のマッサージ、肩関節ROM運動、肩甲骨の安定化運動、後部腱板のストレッチの4種類を実施しています。
マッサージに関しては、active release soft tissue massage techniquesやtransverse friction massageが行われたようですが、僕が徒手療法に関する知識が足りないので、ここでは割愛させていただきます。目的としては、筋肉を柔らかくすることを中心に行っているようです。
具体的な方法に関しては、こちらを参照ください。
方法3 投薬
NSAIDS(nonsteroidal anti-inflammatory drug)の服用が管理に有効と言われています。
方法4 注射
エコー下での四辺形間隙の神経周囲へのステロイド注射も有効であるとされており、症状の変化を観察することでQSSの評価にも繋がると言われています。
手術療法
6ヶ月間保存療法を実施しても効果の出ない場合は手術が検討されます。
手術方法は減圧法といって、四辺形間隙にある神経・動脈にかかる負担を減らす手術です。
具体的には、癒着や繊維帯(fibrous band)を取り除くというような手術です。
手術後は癒着の発生を防止するため理学療法が重要となります。
この手術を行った研究ではほとんどの患者がスポーツ復帰できたと報告しています。
結論
四辺形間隙症候群はいまだに診断・治療が難しい疾患です。
他の疾患とも混同されやすく、見逃しがちな疾患でもあるので、似たような症状の患者さんに出会った際には、Drとも積極的に意見交換を行い、適切に治療が進むようにすることが重要です。
四辺形間隙症候群の症状は肩関節周囲炎と似た部分もかなりあるので、肩関節周囲炎に対してはこちらを参考にしてください。
参考になれば幸いです。
ご覧いただきありがとうございました。
参考文献
Hangge, Patrick, et al. Quadrilateral space syndrome: diagnosis and clinical management. Journal of clinical medicine, 2018, 7.4: 86.