- 大腿骨近位部骨折に対するバランストレーニングの具体的な方法が知りたい
P:大腿骨近位部骨折患者52名
I:バランストレーニング(バランスマット上での立位など)
C:OKC運動(ROMex、筋トレ含む)
O:身体機能・疼痛・BBS・FIM・SF-36が有意に改善
理学療法士のこうすけです。
先日、大腿骨近位部骨折に対するバランストレーニングがシステマティックレビューで効果が実証されたことを記事に書きました。
しかし、システマティックレビューでは具体的な方法まで落とし込むことはできません。
そこで、質の高い介入研究を紹介し、臨床で使えるようになって欲しいという願いを込めて、今回2018年にイタリアのカリアリ大学が行ったRCTについて解説していきたいと思います。
論文のタイトルは「How balance task-specific training contributes to improving physical function in older subjects undergoing rehabilitation following hip fracture: a randomized controlled trial」で
日本語訳すると「バランストレーニングは大腿骨近位部骨折後のリハビリテーションを受けている患者の身体機能の改善にどのように貢献するか?ーランダム化比較試験ー」となります。
では背景から学んでいきましょう。
背景
以前より、リハビリテーションが大腿骨近位部骨折の回復とQOLの向上に重要な役割を果たす可能性は示唆されてきました。
しかし、その効果や、タイミング、期間、エクササイズの種類についてはまだ明らかになっていません。
適切なバランストレーニングは、転倒リスクの減少や歩行の改善に貢献することが期待されており、患者に提供する運動の中でも注目されています。
2007年に実施されたリハビリテーションプログラムでは大腿骨近位部骨折患者のADLの自立度と屋内歩行能力を向上させたという結果が得られました。
このような良好な結果にも関わらず1年間のフォローアップ終了時にはADLと移動能力は維持されたものの転倒に関しては両群で有意差は認められませんでした。
一方で、個別の転倒予防教育がリハビリテーション病院に入院した大腿骨頸部骨折患者の転倒率を低下させたという研究もあります。
しかし、身体機能に対するバランストレーニングの効果について検討した研究はありません。
年々、大腿骨近位部骨折後のリハビリテーションの研究は進んでおり、決定的な有効性は示されていないものの、良好な結果を示している傾向が見られております。
目的
バランストレーニングが大腿骨近位部骨折術後患者の身体機能・疼痛・ADL・バランス・QOLの改善に効果があるかを検討することです。
方法
デザイン
無作為化ランダム比較試験(RCT)
対象
大腿骨転子部・転子下・転子間骨折術後患者52名(平均年齢77歳、認知機能OK、最近の心筋梗塞やCVAなどなしなど)
手順
- コンピュータを使用し無作為化し、バランストレーニングを行う群(BT群)コントロール群(CO群)に分類
- BT群は術後1週間後から標準プログラムに加えて週5回、3週間バランストレーニングを実施
- CO群はバランストレーニングの代わりにベッド上でのOKCトレーニングを実施
- リハビリテーションの合計時間は1日90分
バランストレーニングの内容
- バランスパッド上での立位・タンデム立位のような運動
- 患者の能力に応じて閉眼にするなどして難易度を調整
- 頸部を左右に回旋させての歩行訓練
- 速度や方向を変えた歩行訓練
ベッド上でのOKC訓練
- 仰臥位でのROM訓練や筋力増強訓練をOKCで実施
標準プログラム
- 歩行訓練
- 日常生活を送る上での注意点などが記された小冊子を受け取った
- NSAIDS(例:ロキソニン)の使用は許可
- プログラムの遵守が困難になった場合はキーパーソンに連絡し励ますよう促した。
結果
- WOMAC(機能サブスケール)は介入直後、退院1年後共に有意にBT群で改善
- WOMAC(疼痛サブスケール)は介入直後のみ有意にBT群で改善
- SF-36は日常役割機能・心の健康を除いて有意に改善
- BBS・FIM・SF-36は介入直後、退院1年後共に有意にBT群で改善
- Global Perceived Effect ScaleはBT群で有意に高値を示した
- 遵守率は両群ともに良好であった(BT群92.3%、CO群88.4%)
WOMACとは
The Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Indexの略で、股関節と膝関節OAの評価でよく用いられる評価方法。
健康関連QOLの測定方法としても用いられている。
下記に項目を示す。
- 疼痛(5項目):歩行中、階段の使用中、ベッドの中で、座っているまたは横になっている、および直立している
- こわばり(2項目):最初の目覚めの後、その日の後半
- 身体機能(17項目):階段の使用、座った状態から立ち上がる、曲がる、歩く、車に乗り降りする、買い物をする、靴下を脱ぐ、ベッドから立ち上がる、ベッドに横になる、乗り降りするお風呂、座って、トイレに乗り降り、重い家事、軽い家事
なし(0)、軽度(1)、中程度(2)、重度(3)、および極度(4)
これらの合計点で評価する。
つまり得点が高いほど悪いということ。
Global Perceived Effect Scaleとは
主観的な感覚を評価する方法でいくつかの方法が存在する。
この研究では、「この治療によりどれくらい助かりましたか?」という問いに対して
(1 =かなり助けられた、2 =助けられた、3 =少しだけ助けられた、 4 =役に立たなかった、5 =少し悪化した、6 =悪化した、7 =かなり悪化した)と段階づけして答えるというもの。
私見と考察
- 我々の予想どおりバランストレーニングは有効だった
- リハビリテーションはバランスを回復させるには期間が必要なのでなるべく早く始める必要がある
- SF-36における精神領域にも良い影響を及ぼすというのはバランストレーニングの重要性を後押ししている
システマティックレビューでも支持されているバランストレーニングの具体的な方法を知るということは非常に大切です。
この論文にも細かく内容が書かれている訳ではありませんでしたが、術後早期からバランストレーニングを取り入れていくことでより良い結果を残すことができるというイメージは出来たのではないでしょうか?
若手のセラピストの方であれば、どのような介入をしたらいいか全く分からないという人も少なくないでしょうが、数少ない科学的に根拠が認められている方法の一つがバランストレーニングなので、自信を持って患者さんに実践していただければと思います。
しかし、読者の方の中には「どの感覚器に対するアプローチなのかが詳細に書かれていない時点で参考にならない」と思われる方もいらっしゃると思います。
確かに、バランストレーニングの背景にある理論を学ぶことも重要だとは考えていますし軽視している訳ではありませんが、良い結果が出る可能性の一番高い方法を選択するというのがまず何よりも一番重要なのではないでしょうか。
素晴らしい理論だけど本当に良くなるかは分からないAという治療と、理論はさておき良くなる可能性の高いBという治療法があったとしたら、あなたが患者だとしてどちらの治療を選びますか。
薬だったら間違いなくBを選択しませんか?
科学的にBというのはエビデンスレベルの高い介入方法のことです。
これからも一緒に患者さんが良くなる可能性の高い治療法を選択できるように勉強していきましょう。
最後に、バランストレーニングと同様にシステマティックレビューレベルで効果が認められている方法が筋トレです。
こちらも興味があれば読んでみてください。
【参考文献】