はじめに
理学療法士のこうすけです。
皆さんの勤め先では、LIPUSって使用されていますか?
LIPUSとは
Low Intensity Pulsed Ultrasound(低出力超音波パルス)の略で、物理的刺激を骨折部に加えることにより、骨癒合の促進を図るものである。
日本においては、帝人株式会社(TEIJIN)より販売されている”セーフス”が良く知られている。
LIPUSは整形外科領域では頻繁に行われている骨折治療の方法の一つです。
LIPUSは保険適用にもなっており、
- 難治性骨折超音波治療法(一連につき) 12,500点
- 超音波骨折治療法(一連につき) 4,620点
が診療報酬として認められております。
ざっくり言うと、骨折術後や骨切り術後早期の患者、難治性の骨折患者において算定できるものです。
LIPUSをインターネットで調べると骨折が最大で40%早く癒合した!などかなり劇的な効果があると出てくるわけですが、これが果たして本当なのかを検討した論文がありましたので、紹介したいと思います。
論文紹介
この論文は2017年にカナダにあるマクマスター大学が行なったシステマティックレビュー(メタアナリシス)でして、骨折および骨切り後の患者に対するLIPUSの効果について検討したものになります。
過去にも様々な研究者がLIPUSの効果についてシステマティックレビューを行ない、『骨癒合に効果がある』と報告している中、バイアスが強い研究が多いのでこれらの結果はおかしい!と論文を精査して検討し直したのがこの論文です。
3849件の論文の中から包括基準を満たした26件のRCTを対象に骨折および骨切り後の患者に対するLIPUSの効果を『仕事復帰までの期間』『疼痛』『荷重までの期間』『再手術』『レントゲン上の骨癒合』について検討しました。
結果は以下の通りです。
結果
包括基準を満たした論文の中からさらに中〜高品質の論文に基づくとLIPUSの効果は
- 仕事復帰までの期間に影響を与えない
- 4−6週における痛みに影響を与えない
- 荷重までの日数に影響を与えない
- 再手術に影響を与えない
- レントゲン上の骨癒合に影響を与えない
- 害はない
という結果となりました。
つまり、害も無ければ益もないということで、LIPUSの効果を否定する結果となりました。
考察と私見
LIPUSをはじめとした機械を使用する研究の難しさは出資バイアスにあります。
出資バイアスとは
研究を行って出た結論が、その研究に対して出資している企業の利得によって影響を受けること。
今回の例でいうと、LIPUSを開発・販売している会社がLIPUSの効果を検討する研究に出資した場合、その結果は『LIPUSが効果がある』という方向に流れがちになるということです。
実際、採択された論文の中でLIPUS関連の会社から出資を受けずに行われた研究は12%にとどまっています。
その他にもバイアスは存在し、考慮した上でハイリスクバイアスとローリスクバイアスに分けてみると非常にわかりやすい結果となりました。それが以下の表です。
上に記載されているハイリスクバイアスグループは一様にLIPUSの効果を謳っているのとは対照的にローリスクバイアスグループは効果がないという結果となっています。
このように研究にはバイアスが必ず含まれてしまうので、バイアスも認識した上で論文を見ていくとより本質に近づいていけるのではないでしょうか。
ひとまず、現時点ではLIPUSの効果はかなり疑わしいという結論ですね。
参考になれば嬉しいです。
ご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】
Schandelmaier, Stefan, et al. Low intensity pulsed ultrasound for bone healing: systematic review of randomized controlled trials. bmj, 2017, 356: j656.