P(patient)
平均年齢83.4歳の大腿骨近位部骨折患者
I(intervention)
オペ後4ヶ月からホームエクササイズを1回45分、週2回、10週間実施
C(comarison)
通常のケアのみ(リハビリテーションを含む)
O(outcome)
歩行速度、歩幅、下肢機能は介入群で有意に改善した
介入群とコントロール群で医療費に差は見られなかった
理学療法士のこうすけです。
今回は2019年に発表された「Short and long-term clinical effectiveness and cost-effectiveness of a late-phase community- based balance and gait exercise program following hip fracture. The EVA-Hip Randomised Controlled Trial」という論文について紹介したいと思います。
これは、ノルウェー科学技術大学が行ったRCTでして、大腿骨近位部骨折に対する訪問リハビリテーション(歩行・バランス中心)の費用対効果と短期及び長期の効果について検討した研究です。
では早速背景からみていきましょう。
背景
高齢者の大腿骨近位部骨折は生活の劇的な変化を引き起こし、医療費を増大させることが知られています。
医療が進歩した現在においても、大腿骨近位部骨折は歩行や運動能力の著しい低下、障害リスクの増大、新たな転倒、受傷後10年間における死亡率と大きく関連しています。
骨折前機能に戻る例は、他の転倒関連外傷と比較しても大腿骨近位部骨折では少なく、これは大腿骨近位部骨折患者のフレイルと関連していることが考えられます。
よって、リハビリテーションを実施する際にも考慮する必要があるのです。
歩行機能は受傷後1年で安定すると言われていますが、それまでリハビリテーションを続ける例は決して多くありません。
システマティックレビューでは通常のリハビリテーション期間を超え、病院以外でリハビリテーションを延長することは歩行と移動性を改善すると結論づけられていますが、歩行をメインアウトカムにおいた研究はほとんどありません。
また、病院外リハビリテーションへの批判としてコストパフォーマンスが挙げられることもよくありますが、それについて検討された研究もほとんどありません。
目的
今回大腿骨近位部骨折患者に対する訪問リハビリテーションの歩行へに対する効果とコストパフォーマンスを検討すること
方法
■大腿骨近位部骨折患者に対して、介入群とコントロール群に無作為に分類。
- 介入群:術後4ヶ月より訪問リハビリテーションを実施。
- コントロール群:通常のケア(リハビリテーション含む)
■介入の詳細
1回45分・週2回・10週間実施
プログラム(5つの種目を中心に実施)
- 歩行
- 碁盤模様の床でステップ
- 踏み台昇降
- 立ち上がり
- ランジ
※難易度は5段階あり、スピードや複雑性、デュアルタスクなどで負荷を上げていく
OUTCOME
■開始時、2ヶ月後、8ヶ月後に実施
■評価項目
- 快適歩行速度
- 活動量(平均起立時間、立ち上がり回数)
- 歩幅、ケイデンス、歩行比、両脚支持時間、片脚支持対称性
- SPPB(Physical Performance Battery)
- ADL(BI)
- IADL(Nottingham Extended I-ADL Scale)
- 認知機能(MMSE、Clinical Dementia Rating Scale)
- うつ病(Geriatric Depression Scale)
- 健康関連QOL(EuroQol-5 dimension-3L (EQ-5D-3L))
- 転倒恐怖心(Short Efficacy Scale International(FESI))
- 慢性疲労(Chalder Fatigue Questionnaire)
- 転倒
- 費用(医療費、介護施設利用費など)
結果
- 介入開始2ヶ月後、8ヶ月後(介入終了後約6ヶ月)において歩行速度、SPPB、歩幅は有意に改善した
- ADL、健康関連QOL、立位時間、認知機能などの他のパラメーターには変化が見られなかった
- 医療費は介入期間中は介入群で有意に高かったが、開始時から8ヶ月後までのトータルでは有意差は無かった
私見と考察
筆者の意見をまとめると
- 歩行速度、歩幅、SPPBの改善は臨床的に重要な変化である
- 自己申告系のデータ(ADLやQOLなど)の改善が見られなかったことに関しては、歩行パラメータの改善度合いが少なかったからであろう
- 屋外活動と活動量、ADLは関連しており、野外活動をするに足りる歩行速度に達していなかった(結果は0.6m/s)ため、活動量が上がらなかったと考えられる。
- 介入終了後においても効果が持続したことが重要だ
- 費用に関しては、介入費用が介護サービス費用を上回ってしまい総合的に見たら変わらないことから、結果的にはコスパは微妙か
とのことでした。
そして筆者の結論は下記のとおりでした。
大腿骨近位部骨折患者に対する訪問リハビリテーションは費用を増加させることなく歩行能力、下肢機能を少しではあるが向上することができるが、ADLや健康関連QOLには影響を及ぼさない。
以前から、大腿骨近位部骨折に対する訪問リハビリテーションの効果はある程度示されていましたが、コスパや歩行に重点を置いて見ているところがこの研究の面白いところです。
日本では国民皆保険となっているため、医療費の感覚は低いですが、海外を見てみると国民皆保険制度を敷いている国はヨーロッパと日本くらいです。
そのため、十分な医療を受けられない人が数多くいるのです。
このような方が十分な医療を受けられるように、また国の負担を少しでも減らすために海外ではコスパの研究も数多く行われています。
皆さんも論文を読んでいて費用に関する部分が出てきたら、先ほどのように海外の医療制度を思い出しながら読んでみると新たな知見が得られるのではないかと考えています。
少しでも参考になれば嬉しいです。
ご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】