- 筋力低下の原因が安静臥床だと考えているがいい感じの論文が見つからない人
- シンプルに安静臥床の研究がどうやってやられているかに興味がある人
理学療法士のこうすけです。
今回は、安静臥床が身体に及ぼす影響について検討した論文を紹介します。
学生さんは実習レポートでたびたび『廃用による筋力低下』というワードを使うと思いますが、筋力低下の大きな原因となる安静臥床について、実際の研究方法を知ることで知識を深め、参考文献としても、この論文を使っていただけると良いかと思います。
また、理学療法士のみなさんも実際どうやって研究しているかを知ることで、研究の面白さが理解できるかと思います。
論文紹介
今回紹介する論文は2008年にアメリカのアーカンソー医科大学が行なった研究で、
高齢者を対象に安静による身体への影響を調査したものとなります。
方法
コミュニティから募集した11名の健常高齢者(平均年齢67歳)に対して、10日間ベッドで寝たきり状態にしました。
実験前、実験中、実験後には、健康状態に問題がないかをCHECKするため、病歴の聴取や採血、検尿を実施しリスク管理を行なっています。
なお、安静臥床の10日間日常生活は基本的に全てベッド上で行い、トイレはベッドサイドに設置、シャワーは車椅子で移動し5分間のみという条件で管理しています。
OUTCOME
評価は開始時と終了時の2回行いました。
評価項目は以下の通り。
- 筋力(等尺性、等速性)
- 階段昇段能力
- 最大酸素摂取量(VO2MAX)
- 身体パフォーマンス(SPPB、5分間歩行、50フィート歩行、five step test、FRT、いざり)
SPPBとは
Short Physical Performance Batteryの略で、高齢者の下肢機能を評価するものです。3つのテストを点数化したのち、合計した点数で評価を行います。
3つとは、バランステスト(立位-セミタンデム-立位)、4m歩行速度、椅子からの5回立ち上がり時間です。
結果
結果は以下の通りとなりました。
10日間の安静臥床で・・・
- 筋力は大幅に減少(膝伸展筋力は約13%減少)
- 階段昇段能力は12%低下
- VO2MAXは12%低下
- 身体パフォーマンスは変化なし
- 大きな有害事象(DVTなど)は見られなかった
考察と私見
まず、この研究を見て驚いたのが『本当にほぼ完全に寝たきりにして10日間も寝たきりにするんだ』ということです。
研究者の本気度が伺えますね。
個人的には、倫理的に微妙な感じがしないでもない(笑)ですが、おかげで安静臥床の影響にかなり迫れた研究となっています。
結果を見ると分かる通り、ほとんど全ての能力が低下したという結果となりました。
筋力低下が起きるという報告は多く見られますが、最大酸素摂取量も大幅に減少してしまうんですね。
これなら、入院している患者さんの持久力がすぐに低下する理由もうなづけます。入院中の患者さんは普段生活している活動量の5%しか動いていないというデータもあるので、同様の影響が起きることは十分に考えられますね。
一方で、身体パフォーマンスの低下は見られませんでした。
その理由として研究者は『参加者の人数が少なかったからではないか』と述べております。
その後に行われたcokerら(2015)の研究では階段昇段能力や5分間歩行も低下しており、おそらく安静臥床は身体パフォーマンスも低下するのでしょう。
どの教科書にも載っている通り、安静臥床は良くなさそうです。
リスク管理は必要ですが、臥床のリスクもしっかりと把握してより良い理学療法につなげていきましょう。
今後、安静臥床による筋力低下を予防する介入研究についても紹介していく予定ですので、お楽しみに。
少しでも参考になれば嬉しいです。
ご覧いただきありがとうございました。
【参考文献】