医学の知識

大腿四頭筋の筋トレは大腿骨近位部骨折患者にやったほうがいい【2001.RCT】

この記事を読むのにおすすめな人
  • 大腿骨近位部骨折の患者さん(入院)にどのような介入が効果があるかを知りたい
  • 筋トレが良いのは分かっているけど具体的な方法を知りたい

PICOでざっくり理解

P:大腿骨近位部骨折患者(急性期の入院患者)
I: 大腿四頭筋トレーニング(週2回)
C:標準プログラム(起居動作・歩行・バランス訓練など)
O:両下肢筋力・EMS・FRTが有意に改善したが、TUG・入院期間は有意差なし

大腿骨近位部骨折(頸部・転子部)の患者は非常に多くみられ、みなさんが理学療法を行うことも多くあるかと思います。

歩行訓練や起居動作訓練はもちろん筋トレをしたり、バランス訓練をしたりベッド上での運動をしたりとバリエーションは多くあるとは思いますが、エビデンスが確立されたものを実行できているでしょうか。

今回はそのヒントになる論文を紹介します。

タイトルは「Randomized controlled trial of quadriceps training  after proximal femoral fracture」です。

日本語では「大腿骨近位部骨折後の大腿四頭筋トレーニングについてのRCT」です。

これは、2001年にスコットランドのグラスゴー王立診療所の老年医学学術部門が行なったRCTであり、大腿骨近位部骨折患者に対する大腿四頭筋トレーニングの効果を検討したものになります。

では背景から学んでいきましょう。

背景

大腿骨近位部骨折は深刻な問題です。

受傷から1年後において、移動が自立している患者の中でも60%が補助具や介助が必要な状況です。

このような障害の原因は数多く挙げられますが、その一つとして大腿四頭筋の筋力低下があり、大腿骨近位部骨折患者は大腿四頭筋の速筋繊維の萎縮が起こることが分かっています。

大腿四頭筋の速筋繊維はフレイルや大腿骨近位部骨折患者の移動能力に大きく影響を及ぼす膝伸展筋力と密接に関係しているため、この萎縮は大きな問題です。

逆に言えば、大腿四頭筋を鍛えることによって障害を改善できる可能性があるとも言えます。

現状、大腿骨近位部骨折患者に対する理学療法としては歩行訓練や起居動作訓練などの基本的なものから筋トレやバランス訓練が行われていますが、トレーニング負荷量などセラピストの裁量に任せられているのが現状です。

高齢者に対する高強度の筋トレが筋機能を改善することは分かっていますが、大腿骨近位部骨折に対して同様の効果を示すかはまだ分かっていません。

確かに具体的な筋トレ方法について研究したものはあまりみたことが無いかも

目的

大腿骨近位部骨折後の患者に体系的な大腿四頭筋トレーニングが下肢伸展筋力を改善し、障害を減らし、QOLを向上させるかを明らかにすることです。

方法

対象

大腿骨近位部骨折患者(65歳以上、認知機能OK、受傷前歩行可能)80名

手順

  1. コンピュータを使用し無作為化し、大腿四頭筋トレーニングを行う群(QT群)コントロール群(CO群)に分類
  2. QT群は術後2週間後から標準プログラムに加えて週2回両下肢の大腿四頭筋トレーニングを実施(6週間)
  3. CO群は標準プログラムのみ実施

標準プログラム

  • 1回20分週5回
  • ベッド上の運動から始まり起居動作訓練・歩行訓練などの基本的動作訓練・バランス訓練を実施

大腿四頭筋トレーニング

1w+2w

  • 1RMの50%
    12回×3セット(インターバル2分)

3w+4w

  • 1RMを再測定し1RMの70%で実施(その他は1w+2wと同様)

5w+6w

  • 1RMを再測定し1RMの80%で実施(その他は1w+2wと同様)

結果

結果は以下のようになりました

結果

  • QT群で両下肢膝伸展筋力が有意に増加
  • QT群でFRTが有意に増加
  • QT群でElderly Mobility Scale(EMS)が有意に改善
  • TUG、歩行速度は両群に有意差なし
  • バーサルインデックスは0−6週まではQT群で有意に改善(16週では有意差なし
  • 入院期間は両群で有意差なし

Elderly mobility scaleとは

EMSとは虚弱高齢者の移動能力を評価するものです。

以下の表に示すように7項目のテストからなりそれぞれの合計点で評価します。

EMSアイテム評価オプション(ポイント)
臥位→座位自立(2)
1人の介助が必要(1)
2人以上の介助が必要(0)
座位→臥位自立(2)
1人の介助が必要(1)
2人以上の介助が必要(0)
立ち座り3秒未満で自立(3)
3秒以上で自立(2)
1人の介助が必要(1)
2人以上の介助が必要(0)
立位支えなしで立位で手を伸ばせる(3)
支えなしで立位はできるが手は伸ばすには支えが必要(2)
支えがあれば立位が可能(1)
介助なしでは立位不可(0)
歩行自立(杖の使用の有無を問わない)(3)
歩行器歩行自立(2)
補助具使用で歩行可能だが不安定(1)
歩行には介助や常時監視が必要(0)
6m歩行テスト15秒未満(3)
16〜30秒(2)
30秒を超える(1)
6メートル歩行不可(0)
FRT20cmを超える(4)
10〜20cm(2)
10cm未満(0)
スコア結果の解釈
14~20基本的ADLは自立。多少の介助が必要になる場合もあるが、一般的に一人暮らし可能なレベル。
10~13基本的ADLがギリギリ自立するレベル。移動には介助が必要なこともある
0~9基本的ADLにも介助が必要なレベル

※全て私が日本語訳したもの

私見と考察

論文の著者の主張
  • 大腿骨近位部骨折に対する大腿四頭筋トレーニングはとても効果が高い
  • EMSが有意に改善したということは障害が改善したと言えるだろう
  • 入院した患者の多く研究に参加できた(72%)ということは、このプログラムは多くの患者に適応できるということだ
  • 評価者が盲検化されていないので、観察者バイアスが入っている可能性はある

観察者バイアス (Observer bias)とは

観察者バイアスとは、「観察者がある期待した結果を得たいと考えているとき、期待している結果のみを意識しすぎてそれ以外の結果を見過ごしたり、軽んじたりする傾向のこと」を言います。

この研究でいうと、評価者がどちらの群を評価しているかが分かっているので、「無意識に」QT群に都合のいいように評価してしまったりするようなことが観察者バイアス の例として挙げられます。

この論文は筋トレのみの効果をみた数少ないRCTの一つです。

最近の論文まで色々と探ってみましたが、ここまでシンプルな論文はあまり見かけません。

ほとんどは筋トレの効果を見るといながらサーキットトレーニングにバランス訓練が組み込まれていたりするのです。

ただし、筆者がいうような観察者バイアスだけでなく、大腿四頭筋トレーニングが「追加」されたというところも着目すべきかもしれません。

というのもCO群はその間別の運動をしたわけでは無いので、大腿四頭筋トレーニングで筋力増強以外の部分に影響が発生しこのような結果になった可能性があるからです。(大腿四頭筋トレーニングにより心拍数が上昇し持久力が上がったことによって能力が改善したとか)

したがって、全て鵜呑みにすることはできないものの、現状では大腿四頭筋トレーニングは大腿骨近位部骨折患者にとって有益なトレーニングと言えるでしょう。

2017年のシステマティックレビューにおいても、大腿骨近位部骨折患者に対する漸進的抵抗運動の有効性が示されているため、筋トレはどんどん取り入れていくと良いかもしれませんね。

少しでも参考になれば嬉しいです。

ご覧いただきありがとうございました。

【参考文献】

Mitchell, Sarah L., et al. Randomized controlled trial of quadriceps training after proximal femoral fracture. Clinical rehabilitation, 2001, 15.3: 282-290.

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