理学療法士のこうすけです。
膝OAに対する運動療法では大腿四頭筋のトレーニングが最も頻繁に出てくる方法であるわけですが、他の部位の筋トレはどうなんだろう?
という疑問に答えるような論文を今回紹介したいと思います。
というのも、内側型の膝OAに対する考え方として、『外部膝関節内転モーメント(膝の内反モーメント)が高いほど膝OAの進行や重症度に関連しているから、それを減らせば痛みが減るんじゃね?』というものがあり、このモーメントを減らす可能性のある方法の一つとして”股関節外転筋力強化”が挙げられています。
また、膝OA患者は股関節外転筋力が低下していることも分かっており、そういった意味でも股関節外転筋力を鍛える意味はありそうだよね。ということなんです。
そこで、今回は膝OAに対する股関節外転(および内転)トレーニングが膝OAに効果があるのかについて検討した論文の解説をしていきます。
論文紹介
これは、2010年にメルボルン大学が行なったRCTでして、
89名の膝OA患者を対象に、股関節外転・内転トレーニング群、コントロール群に分け、その効果を検討したものです。
方法
股関節外転・内転トレーニング群とコントロール群に無作為に分けたのち、12週間週5回の頻度でトレーニング群には股関節外転・内転トレーニングを実施させました。
コントロール群は特に何も介入しませんでした。
詳細は以下の通りです。
股関節外転・内転トレーニング群
- 自宅にて側臥位で足首に重錘またはゴムバンドを巻いた状態で股関節外転・内転トレーニングを実施
- 10回3セット実施
- 介入期間中7回理学療法士によるレクチャーがあり負荷を調整
コントロール群
- 特に何も介入なし
OUTCOME
評価はベースライン時と介入が終了した13週の2回計測し、評価項目は以下の通りでした。
- 膝内転モーメント:(VICON)
- 疼痛:VAS
- 膝OAの症状:WOMAC
- 筋力(股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋、膝伸展)
- 身体機能:①ステップテスト;15秒で15cmの段へステップをくりかえす、 ②timed stair ascent/descent task;階段の上り下りの時間を図る
- 身体活動:PASE;physical activity scale for the elderly(質問紙)
結果
結果は以下の通りになりました。
- 疼痛と身体機能は大幅に改善した(介入群の80%が疼痛と身体機能が改善した)
- 膝関節内転モーメントには変化は見られなかった
- 股関節内転・外転、膝伸展筋力が大幅に改善した
考察と私見
結果から見ると、当初予想していた内転モーメントには良い影響は無かったが、股関節の筋力はしっかりと強化されて、膝OAの症状も大幅に改善したということですね。
残念ながら、当初予想していた『股関節の外転筋力強化は内転モーメントを減らす』という仮説を裏切る結果となりました。
そして、ちゃっかりトレーニングをしていない大腿四頭筋の筋力が改善しているというのもポイントです。この結果に関して論文中でBenellは、『側臥位での股関節のトレーニング中、常に膝は伸展位だったのでそれによって大腿四頭筋が鍛えられたかもしれない』と述べています。
つまり、この膝OAの症状の軽減効果の原因は『①なんらかの理由で股関節外転・内転筋力が膝OAの症状に関連しており、筋力が強化されたことによって症状が軽減した(モーメントは関係なし)』と考えることに加え『②股関節の内外転トレーニングをやったつもりがついでに大腿四頭筋が鍛えられて結果的に症状が軽減した』の2パターンが考えられます。
もともと大腿四頭筋の筋力強化は膝OAに対して効果が認められていますしね。
大腿四頭筋の強化もなぜ症状が良くなるのかはよく分かっていませんし、それと同様に股関節外転・内転筋力強化もよくわからないという極めてファジーな結果となりました。
この結果を臨床に活かすとしたら2つの考え方があると僕は考えています。
一つは、『膝がとても痛くて大腿四頭筋のトレーニングが行えない患者さんに対して行うと良いのではないか?』ということです。股関節の内外転トレーニングであれば、膝に負担を大きくかけることなく実施できるので症状が強い患者さんには使えそうですね。
二つ目は『大腿四頭筋のトレーニングに加えて股関節内外転トレーニングを実施する』ことがいいのではないかと考えています。
もし、股関節内外転筋力強化が膝OAの症状改善に効果があるのだとすれば、大腿四頭筋のトレーニングに付加することでより大きな効果が期待できそうですよね。
2018年には膝OAに対する大腿四頭筋と股関節外転トレーニングの併用の効果を見るRCTのプロトコールを紹介した論文が発表されており、早くこの効果を見たいなというところではあります。
以上のように、膝OAに対して股関節の内外転トレーニングを行うことは有益であると考えられます。
トレーニング機器も重錘やゴムバンドなど大掛かりなものは必要ないので、取り入れてみてはどうでしょうか?
ご覧いただきありがとうございました。
参考になれば嬉しいです。
【参考文献】