医学の知識

膝OAに対する大腿四頭筋の筋トレは膝内反モーメントを改善するのか?【RCT】

膝OAに対する大腿四頭筋の筋トレの目的は何か?

理学療法士のこうすけです。

ガイドラインやシステマティックレビューに書いてある通り、膝OAに対しては筋トレがいい!と散々当ブログでも言ってきました。

そして、最もメジャーなトレーニング部位として、大腿四頭筋があります。

多くの理学療法士も膝OAの患者さんに対して、大腿四頭筋の筋トレをやっていると思いますが、これは『何を目的』に行っていますか?

動作時の膝を安定させることを目的に行っている人が多いのではないでしょうか?

安定させるということが、膝の外部内転モーメントを低下させること(つまり、内反しないようにすること)であれば、大腿四頭筋の筋力強化がモーメントの低下につながるという仮説のもとに、トレーニングを行なっていることになります。

しかし、本当に大腿四頭筋の筋トレは、膝外部内転モーメントの低下につながるのでしょうか?

この疑問に対する答えにつながる研究がありましたので、紹介したいと思います。

論文紹介

これは、2008年にオーストラリアのメルボルン大学が行なったRCTでして、107名の内側型膝OA患者を対象に大腿四頭筋トレーニング群、コントロール群に分け、12週間のトレーニングの効果を検討しました。

また、最近の縦断研究でベースラインの大腿四頭筋の筋力が強いほど、膝のアライメントが不良の患者では膝OAが進行するリスクが増加するが、膝のアライメントが悪くない患者では増加しないことが分かった(つまり膝の変形が強く、大腿四頭筋筋力も強い人はより疾患進行のリスクが高い)という報告があり、大腿四頭筋筋力が強いほど膝関節圧縮応力が高まるとされているため、さらにアライメント良好群とアライメント不良群にも分類し、合計4群(①トレーニング・アライメント良好群、②トレーニング・アライメント不良群、③コントロール・アライメント良好群、④コントロール・アライメント不良群)で検討を行いました。

簡単にいうと、変形が強い膝OA患者は大腿四頭筋の筋トレをすると余計に悪化する可能性があり、それも含めて検討するために4群にしたということです。

方法

トレーニング群に関しては週5回12週間に渡ってセラバンドと重錘を使用した5種類の運動を実施しました。

コントロール群は特に何も介入しませんでした。

アライメント良好は正常から5度以下の内反変形、アライメント不良は5度より大きい内反変形で群分けされました。

トレーニングの内容は以下にまとめました。

トレーニング内容

5種類のトレーニングを実施

  1. レッグエクステンション(座位、0−90°、足首に重錘を巻いて)
  2. レッグエクステンション(背臥位or長座位、0−30°、足首に重錘を巻いて)
  3. 下肢伸展挙上(背臥位or肘をついた背臥位、足首に重錘を巻いて)
  4. 等尺性膝伸展運動(座位、30°膝屈曲位、足首に重錘を巻いて)
  5. 等尺性膝伸展運動(座位、60°膝屈曲位、セラバンド使用)

※1 最初の2週間は10回2セット、その後は10回3セット実施。

※2 基本的に週5回行い、残りの2日は症状に応じて被験者が決定して実施。

※3 1,2,3,4,5,7,10週のタイミングで理学療法士が訪問し負荷量を検討。

OUTCOME

アウトカムは歩行中の膝関節内反モーメント(VICONで計測)、疼痛(WOMAC pain score)機能(WOMAC pain score、ステップテスト、階段昇降テスト)、大腿四頭筋筋力でした。

なお、計測は実験開始時と12週間の介入終了時に実施しました。

OUTCOME
  • 膝関節内反モーメント(VICONで計測)
  • 疼痛(WOMAC pain score)
  • 機能(WOMAC pain score、ステップテスト、階段昇降テスト)
  • 大腿四頭筋筋力

結果

結果は以下の通りになりました。(交絡因子の調整後)

  • 膝内反モーメントは全ての群で有意差は見られなかった
  • 大腿四頭筋筋力はトレーニング群で大幅に改善した
  • 疼痛はトレーニング・アライメント良好群のみ大幅な改善を示し、トレーニング・アライメント不良群は改善しなかった
  • 機能には全ての群で変化が見られなかった

私見と考察

当初の仮説としては、大腿四頭筋筋力が増加すると関節の圧縮応力が高まるため、膝内反モーメントが上昇するというものでしたが、大腿四頭筋の筋力が上昇したのにモーメントは変わらないという異なる結果となりました。

理由としては、いくつか考えられますが、この内転モーメントの領域って奥が深すぎて、ここでは解説しきらないので、省略したいと思います。泣

が、一つも理由を説明しないのも気持ちが悪いので、論文に書かれている意見を一つ紹介します。

その仮説は、アライメント不良群はもともと内反モーメントが高い状態だったため、大腿四頭筋の筋力が向上しても影響を及ぼさなかったというものです。

つまり天井効果ですね。

もともと悪すぎて、筋力を鍛えても影響なかったんじゃない?てことです。

まあ、あくまでも考察は仮説であって事実は正直分からないので、これくらいにしておきましょう。

臨床にいる理学療法士ってかなり広い領域を網羅しないといけないので、効果の高い介入方法を知ることに尽力すべきかと・・・

そして、筋力はやっぱり大幅に向上しましたね。

大腿四頭筋の筋トレを5種目も週5回やっていれば当然といえば、当然ですが20−27%の改善は素晴らしいです。

ただ、痛みが内反変形が強い人では筋トレをしても改善しなかったというのは残念な結果となりました。

あまり変形が強すぎると効果はないってことですから。ただし、少なくとも悪い結果は出ていないので、痛みのない範囲でトレーニングは実施しても良いかもしれませんね。

臨床でこれらの情報を活かすとしたら、『膝の変形があまり強くない人には積極的に大腿四頭筋の筋トレを勧めましょう。ただ、変形が強い人には効果がないかもしれませんよ。』『大腿四頭筋を鍛える目的は?と聞かれても膝が安定するからです!って断定はできないよー』といったところでしょうか。

それと、トレーニングメニューは上に示した『5種類のトレーニング』を週5回実施して、週1回程度理学療法士が確認し負荷量を調整すれば、膝の変形が強くない人は筋力もつくし痛みも大幅に減るので、なかなか病院に通えない人に対して使えるかもしれません。

少しでも役に立てば嬉しいです。

ご覧いただきありがとうございました。

【参考文献】

Lim, Boon‐Whatt, et al. Does knee malalignment mediate the effects of quadriceps strengthening on knee adduction moment, pain, and function in medial knee osteoarthritis? A randomized controlled trial. Arthritis Care & Research: Official Journal of the American College of Rheumatology, 2008, 59.7: 943-951.

 

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