理学療法士のこうすけです。
今回は2020年にLancetに掲載された大腿骨近位部骨折に対する早期手術の効果に関するRCTを紹介したいと思います。
背景
大腿骨近位部骨折は世界中で150万人に発生し、高所得国(欧米諸国、中国、日本など)では約95%が外科的に管理されています。
また、手術を受けた大腿骨近位部骨折患者は緊急でなくTHAを受けた患者と比較し、明確に主要な合併症や死亡率が高いことが知られており、骨折自体がそのリスクであることが示唆されています。
そのような状況の中で観察研究ではありますが、受傷後早期の手術が死亡率と主要な合併症のリスクの減少と関連しているとの報告があります。
そこで、今回大腿骨近位部骨折に対する早期手術と管理(HIP ATTACK)研究を行い、早期の手術が死亡率や合併症の軽減に効果があるかを検討しました。
外科的介入を必要とする股関節骨折の患者3000人を対象とした国際的なランダム化比較試験のことをいいます。
この試験では、90日間の死亡リスクと主要な周術期合併症(死亡率、非致死性心筋梗塞、非致死性肺塞栓症、非致死性肺炎、非致死性敗血症)に対する標準治療と比較した加速医療クリアランスおよび加速手術の効果を検討するものです。
方法
17か国69病院から集められた約3000人の大腿骨近位部骨折の患者(平均79歳)を対象に、受傷後早期の手術(診断後平均6時間:早期手術群)と標準的な手術(診断後平均24時間:標準手術群)の効果を比較・検討しました。
OUTCOME
主要OUTCOME
- 死亡率
- 主要な合併症の複合(非致死性心筋梗塞、脳卒中、静脈血栓塞栓症、敗血症、肺炎、生命に関わる出血)
二次的OUTCOME
血管系、非血管系死亡率、心筋梗塞、心筋梗塞の定義を満たさない心筋障害、うっ血性心不全、新規の重篤な心房細動、脳卒中、静脈血栓塞栓症、肺塞栓、近位深部静脈血栓症、感染症、敗血症、肺炎、生命に関わる出血、無作為化後90日での褥瘡、および7日以内でのせん妄
結果
- 二つの群の間に死亡率と主要な合併症において差は認められなかった
- 二つの群の間に再手術、人工関節脱臼、人工関節周囲骨折、手術部位感染において差は認められなかった
- 早期手術群の方が離床が早かった
- 早期手術群の方が立位や全荷重までの時間が早かった
- 早期手術群の方がせん妄、尿路感染症、無作為化後4-7日後の中~重度の疼痛が少なかった
- 早期手術群の方が入院期間が短かった(1日)
考察と私見
論文よりざっくり内容を言うと
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- 6時間以内に手術すると死亡率と合併症には効果はないけど、せん妄、尿路感染症、中~重度の疼痛が減少するから患者さんにとってはいい影響がありそう。
- 入院期間は1日短くなることによって、医療費が削減の効果としてはかなり期待できる
- 尿路感染症・せん妄の減少は離床が早くなることによる影響が大きいと示唆される
といったような感じでした。
2011年に発表された大腿骨頚部/転子部骨折ガイドラインの中でも、できる限り早期の手術を推奨する【GRADE B】とされておりましたが、信頼できるRCTは少なくエビデンスは低いとされていました。
この論文では世界17か国、69病院と大規模でのRCTであり、世界五代医学雑誌であるLancet(ランセット)に掲載されていることからもかなり信頼性の高い結果と言えるのではないでしょうか。
皆さんも改めて手術のタイミングの重要性に気づくことができる論文ですので、興味がある方は下記からぜひご覧になってください。
【参考文献】