今回は2019年にコクラン共同計画が発表した骨粗鬆症性椎体圧迫骨折に対する運動の効果についてまとめたシステマティックレビューを紹介したいと思います。
はじめに
脆弱性骨折(特に、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折)は死亡率の増加と身体機能障害、疼痛、変形、睡眠障害、うつ病、転倒、骨折への恐怖、QOLの低下などとも関連している重篤な疾患です。
また、脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症と大きく関連しており、骨粗鬆症の女性の脊椎圧迫骨折のリスクは50%と、骨密度が正常な女性の9%に対して約5倍のリスクがあります。
脊椎圧迫骨折に対する運動はよく行われるリハビリテーションの一つであり、中でも筋力増強訓練、バランス訓練、有酸素トレーニングが推奨されています。
ただし、これらの効果のほとんどは脊椎圧迫骨折患者に対してのものではなく、脊椎圧迫骨折患者に対して効果があるのか、リスクはあるのかについてのエビデンスは不十分です。
このような背景で、この論文は運動の効果を検討しているわけです。
ちなみに、この論文は2013年に行われた同様の研究のアップデート版で、前回の結論は『脊椎圧迫骨折に対する運動が効果的かは判断できない』というものでした。
方法
脊椎圧迫骨折患者を対象に、4週間以上の運動介入による骨折の発生率や有害事象をはじめとして、4週間以上の運動介入が健康関連のステータス(疼痛や骨密度、身体機能など)にどのような影響を及ぼすかを検討しました。
運動介入の内容に関しては、筋力増強訓練やバランス訓練、太極拳など様々な運動が含まれましたが、多くの研究で筋力増強訓練が用いられました。
結果
主な結果は以下の通りとなりました。
- 骨折への影響:データ量の不足により判断不可
※有害事象は2件のデータに見られた
- 疼痛:データ量の不足により判断不可
- TUG:1秒程度改善(臨床的に重要な変化の最小量の目安は1.4~3.4秒程度)
- QUALEFFO-41・・・3/100ポイント改善
- ※その他は大きな変化はなし
考察と私見
研究データの不足とデザインの統一がなされていない研究がほとんどであり、運動の各パラメーターへの影響は判断できないという結論になりました。
数少ない変化が見られた項目はTUGとQUALEFFO-41(QOL)であるが、TUGの1秒の改善は臨床上有用な変化とは認められず、QOLの向上もわずかなものに留まりました。
有害事象は2件報告があるため、脊椎圧迫骨折の方に理学療法を実施する際には、骨折リスクが高い場合は動き方などを特に注意して指導すると良いかもしれません。
また、エビデンスレベルの非常に高いシステマティックレビューで効果は怪しいということも知っておく必要があります。
理学療法の世界では、評価から治療へという流れが一般的ですが、それがエビデンスと乖離してしまっている現状があります。
理学療法はあくまでも医療の中の一分野であり、その中での理学療法の立ち位置(どれくらいのエビデンスのある治療なのか)は知っておくと良いでしょう。
もちろん、この結果から『脊椎圧迫骨折の人には運動しても効果が確立されていないのでやらなくていい』
というわけではありません。
システマティックレビューでは、採択されたRCTも全て参考文献が掲載されています。
ここから、RCTでの方法や結果などを参照し、取り入れることで最高ではなくても現時点での最適な理学療法を提供できると考えています。
今後はそのRCTについても紹介できたらと考えておりますので、またご覧いただければ幸いです。
参考になれば嬉しいです。
【参考文献】